2.小建中湯加味方の小児~思春期消化器疾患への応用

要旨

中国では漢方古典の「傷寒論」の処方「小建中湯」に利湿、清熱、解毒、止血などの生薬を加味した煎じ中薬で過敏性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などの現代小児疾患の「腹痛」に応用して、著しい効果が得られている。日本漢方エキス剤の「小建中湯」単剤の服用、或いは清熱、解毒剤などとの併用は、現代小児腸疾患や腹痛への応用に有効であると考えられる。

Key words

小建中湯 消化器疾患 潰瘍性大腸炎 クローン病

現状と目的

現代の小児疾患の範疇に、食生活習慣の変化とストレスの増加により、腹痛、下痢、便秘、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病などが増えている。これらには整腸剤、鎮痛剤、ステロイド剤の治療が為されるが、一方では難治例もある。
中国では、小建中湯に加味した煎じ中薬が現代小児の消化器疾患に応用され、腹痛、下痢、過敏性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などに著しい効果が得られているので紹介する。

中国小児科の傷寒論処方

中国では、小児科に応用する中医古典処方は330方ある。その中の28方が「傷寒論」112方の中にあり、全体の25%を占めている。
小建中湯の他に小青竜湯、小承気湯、五苓散、葛根湯、白虎湯、桂枝湯、麻黄湯、麻杏石甘湯などである。

「傷寒論」の小建中湯の「証」

「傷寒論」に「小建中湯」の「証」は脾虚、虚寒証で「建中気、補脾胃、益気血、治悸煩、キョ外邪」の効能があると記述されている。

小建中湯方

桂枝三両(去皮) 甘草三両(炙) 大棗十二枚(擘)芍薬六両 生薑三両(切) 膠飴一升 (出典「傷寒論」:1両=50g、現在中国の小児科で実際に使用されている量は、桂枝6g 炙甘草3g 大棗6g 芍薬12g 生姜3g 膠飴20g)

成分分量 桂皮4g 生姜1g 大棗4g 芍薬6g 甘草2g 膠飴20g
用法容量 水約500mlを加えて煎じる
15才~7才 大人の2/3 7才~4才 大人の1/2
4才~2才 大人の1/3 2才未満 大人の1/4
効能 虚弱 疲労 腹痛 動悸 手足の冷え 頻尿
応用 夜尿症 腎硬化症、前立腺肥大 関節炎 神経症 胆石症 肝炎慢性腸炎 直腸癌 慢性胃炎 胃潰瘍 心臓弁膜症 高血圧 低血圧 気管支喘息 結核症 脱毛症 小児頭痛 夜啼症 など

(改訂4版 漢方業務指針 平成8年3月)

小児の腹部症状

中医学から見ると冷飲冷食、肉食、インスタント食の食生活の変化によって、小児科で腹部症状を訴える子どもが増加している。その症状は腹痛、下痢、便秘、便秘下痢を繰り返す、胃腸炎、過敏性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などが挙げられる。また冬の薄着、不規則な生活、ストレスによる生理不順、生理痛、冷え症、頭痛、めまい、立ちくらみ、食欲不振、不眠などの増加の影響で腹部症状も増加すると考えられる。

中国現代小児科疾患への応用

中国では、利湿、清熱、解毒、止血などの生薬を加味した小建中湯の煎じ中薬が小児の腹部症状の治療に応用され、腹痛、下痢、過敏性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などに著しい効果が得られている。

応用できる日本のエキス漢方製剤

日本漢方エキス剤は、一人一人に合わせて「弁証論治」で処方する煎じ薬のようには出来ないが、小建中湯の単剤の服用、或いはそれに清熱、解毒剤などを併用すると、小児消化器疾患に応用出来、有効であると考えられる。

漢方応用例1

男性
18才 A年1月8日から漢方薬服用
主訴
粘液便、ガスが溜まり腹満、冷え症、吐き気、風邪をひきやすい、口内炎、アレルギー性鼻炎、咳
病歴
A-2年5月から、部活の後、腹痛、下痢。9月に潰瘍性大腸炎と西洋医学の病院で診断される。その後出血が多く、2ヶ月入院治療(2週間の絶食とプレドニゾロンの静注)。退院後2種類の薬(ペンタサとイムラン)を服用。A-1年1月頃から出血、下痢を再発し、再入院治療のために大学受験は出来なかった。
漢方
小建中湯加味陳皮、党参、白朮、当帰、赤芍、黄ゴン、黄柏、板藍根、枳実、仙鶴草
経過
A年1月8日より、漢方煎じ薬を服用開始し、受験出来て大学合格。4月10日、血便、下痢は改善、血液検査も正常化したので、煎じ薬から板藍根、枳実、仙鶴草を除いて継続服用。A+1年2月7日から腹痛、下痢、口内炎の症状が無くなったので、漢方煎じ薬を小建中湯、補中益気湯、小青竜湯の漢方エキス剤(小建中湯と補中益気湯は一緒に服用、季節と鼻の症状に合わせて時々小青竜湯を服用)に変更したが、再発なし。A+2年8月に腸の内視鏡検査で潰瘍、炎症は見られない。

漢方応用例2

男性
13才 B年3月20日から漢方薬服用
主訴
下痢、熱を繰り返す、唇荒れ腫れ、痛み、背中痒い、花粉症(鼻水、鼻づまり、鼻血)、咳
病歴
B-1年春頃、下痢、熱を繰り返し、内科病院入院治療。効果がなく、某県立子供病院でクローン病と診断され、同年7月末~11月に入院治療(絶食とプレドニゾロンの静注)。
漢方
小建中湯加味当帰、赤芍、陳皮、黄ゴン、黄柏、知母、桔梗
経過
B年3月20日より、漢方煎じ薬を服用。4月12日検査で炎症と潰瘍が認められ、再発と診断され13日から2ヶ月再入院治療(絶食とプレドニゾロンの静注)となった。家族の要望で、主治医は入院中の漢方煎じ薬(小建中湯加味当帰、陳皮、桔梗)の服用を許可。7月初旬、退院後本人来局。2種類の西洋薬(サラゾスルファピリジンとペンタサ)を服用中、咳、鼻の症状はなくなったが、貧血が認められたために漢方薬は陳皮、桔梗を除き、党参、白朮を加味した。1年後から西洋薬のサラゾスルファピリジンを中止してペンタサのみを服用、1年半後西洋薬は全て中止され、漢方薬も1ヶ月分を2~3ヶ月で服用するようになり、B+2年4月に高校合格後、漢方薬の服用を中止したが、現在まで再発していない。

漢方応用例3

女性
18才 C年8月22日から漢方薬服用
主訴
頭痛、腹痛、便秘下痢繰り返す、冷え、めまい、立ちくらみ、肩こり、耳鳴り、生理痛、低血圧
病歴
中学生の頃から時々頭痛、腹痛。C-2年秋頃、頭痛がひどくなり、月に2~3回、朝から夕方まで食事が摂れず、起きられない。12月に脳神経外科で偏頭痛と診断され、鎮痛剤(ロキソニン)を処方される。C-1年秋から更に悪化、週に2~3日休み、別の病院で緊張性頭痛と診断され、以下の薬を内服している。
治療
セルシン ミオナール ミグシス デパケン
漢方
小建中湯加味当帰、陳皮、升麻、葛根、山椒
経過
8月31日、本人来局。頭痛は軽くなり、眩暈、立ちくらみ、冷えがよくなる。また同じ処方15日分を調合。9月14日母親が来局。頭痛は週1日休む程度まで改善したが、生理痛と便秘は改善されないので、枳実、木香、白朮を加味し15日分を調合した。10月31日母親が来局、ひどい頭痛は10日に1回位に改善。腹痛、便秘、下痢、耳鳴りがよくなり、生理痛、肩こりが軽くなり、同処方15日分を調合した。

結語

生活の変化により増加し続ける腹痛、下痢、便秘、胃腸炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病など小児から思春期の消化器疾患に小建中湯加味方が広く応用できると考えられる。また、生理不順、生理痛、冷え症、頭痛、めまい、立ちくらみ、食欲不振、不眠などの不定愁訴に小建中湯の加味の応用価値もあると思われる。

参考文献

  1. 江 育仁等 中医児科学 上海科学技術出版社 47~55 2000.12
  2. 張 伯臾等 中医内科学 上海科学技術出版社 166~169 2004
  3. 劉 柏炎等 脾胃病特色方薬 人民衛生出版社 63~74 146~174 235~271 2006.12
  4. 肖 達民等 児科病 人民衛生出版社 43~48 315~358 2006.6
  5. 費 立升等 中医弁証施治 疑難雑症 科学技術文献出版社 41~44 77~82 2006.8

第39回日本小児東洋医学会
{会 期}2001年11月20日
{会 場}倉敷市芸文館
{主催者}日本小児東洋医学会
{演 題}小建中湯の現代小児疾患疾患における応用
発表者 侯 殿昌  孔 徳美  北京懐仁堂漢方薬局