3.中医学のIgA腎症治療法

目的と背景

日本のIgA腎症は、慢性糸球体腎炎の中で一番頻度が高い病気で副腎皮質ステロイド剤などの薬物治療で改善されず、透析療法が必要な患者が多い。中国では、IgA腎症の治療に中医学古典の腎機能を改善する古方を応用し、著しい治療成績がとれることを報告する。

歴史と応用

1.中医学から見たIgA腎症の原因

IgA腎症の中医学病名はなく、臨床症状からみると中医古典の中の「虚労」、「尿血」、「水腫」などに当たる。中医学から見た腎症の原因:
(1) 内因 腎陰虚気虚 腎陰陽両虚
(2) 外因 外感 飲食 労疲 情志失調

2.中医学のIgA腎症の症、治療基本と代表方剤

  1. 陰虚内熱症 滋陰清熱と涼血止血 知柏地黄丸
  2. 気陰両虚症 益気養陰と摂血止血 大補元煎
  3. 脾腎気虚症 健脾補腎と益気摂血 補中益気湯
  4. 瘀血内阻症 活血化瘀と行血止血 桃紅四物湯

以上の「弁証論治」により、煎じ中薬の内服治療法が中心。

3.応用出来ると考える日本の漢方エキス剤

日本の漢方エキス剤は、中医学の「弁証論治」の一人一人に合わせて処方は出来ないが、中医学の治療基本からみると、地黄丸類、当帰湯類、補中益気湯類など漢方エキス剤の応用が有効と考えられる。

治療結果

1.中国の治療実績

黄瑞群氏は知柏地黄丸(医宗金鑑)の加減で40例の小児急性IgA腎症の治療結果は、完治33例、有効6例、無効1例、総有効率97.5%(<湖南中医雑誌>2004年2月号)。
劉宏偉氏は滋腎止血片(時振声経験方)で65例慢性IgA腎症の治療結果は、完全寛解41例、基本的寛解21例、有効12例、無効13例、総有効率80%(<遼寧中医雑誌>1999年6月号)。

2.作者の経験

作者は中医学の「弁証論治」により、煎じ中薬で7例のIgA腎症の治療結果は全て効果があり、その中には人工透析や腎臓移植後の腎機能低下を改善された症例もある。

結語

中国では、IgA腎症の治療に西洋医学の「治表」と中医学の「治本」による腎機能を改善との組み合わせ治療法、中薬(漢方薬)だけの治療法があり、良好な治療成績がとれている。日本のIgA腎症治療に、積極的な漢方薬の応用は価値があると思われる。

第27回日本東洋医学会東北支部学術総会
{会 期}平成23年9月11日(日)9:20~15:15
{会 場}青森県観光物産館アスパム
{主催者}日本東洋医学会
会 長 新谷 哲一
発表者 侯 殿昌  北京懐仁堂漢方薬局