1.特発性血小板減少性紫斑病(ITP)5例の漢方応用結果

現状

ITPは昭和49年4月から指定難病に認定され、現在年間発症者は500人~2000人と推定されている。
西洋医学では現在、完治法はありません。治療の第一選択はステロイド剤であり、約80%の症例で血小板が一時的に増加するが、それを維持する症例は約30%である。しかし、大量、長期のステロイド薬の副作用(満月様顔貌、糖尿病、感染 症、骨粗鬆症、胃潰瘍、精神症状など)が強い。

目的

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は指定難病である。中国では漢方治療により、様々な血液難病に著しい効果が見られる。今回、ITP患者5例に漢方薬を試み、著効があったので結果を報告する。

歴史と応用

  • 中医学病名 血証 発斑 衄血 丹疹
  • 治療の基本 益気健脾 補腎滋陰 清熱涼血 摂血化瘀

応用できる古典の漢方処方

  • <桂枝茯苓丸>(金匱要略 219年 漢・張仲景)
  • <当帰湯>(千金方 628年 唐・孫思邈) 
  • <黄連解毒湯>(外台秘要 752年 唐・王燾)
  • <四物湯>(和剤局方 1085年 宋・太医局編) 
  • <十全大補湯>(同上1085年 宋・太医局編 )
  • <帰脾湯>(済生方 1253年 宋・厳用和)
  • <芎帰調血飲>(万病回春 1587年 明・龔延賢) 

方法

弁証論治により、「益気健脾」「滋補肝腎」、「活血止血」「清熱涼血」などの漢方煎じ薬を1日3回服用。検査結果と全身症状や季節の変化に合わせて、随時に漢方薬の内容を調整した。

応用出来ると考える漢方エキス剤

日本の漢方エキス剤は、中医学の「弁証論治」の一人一人に合わせた処方が出来ないが、中医学の治療基本からみると、健脾湯類、地黄丸類、当帰湯類、補中益気湯類などの漢方エキス剤の応用が有効と考えられる。

症例と結果

作者は中医学の「弁証論治」により、煎じ薬で5例(5才~68才、男性2名、女性3名)のITPの服用結果は、全症例有効。

5例ITPの漢方服用結果

症例 年令 性別 漢方服用直前3回
血小板数(万/ul)
漢方服用直後3回
血小板数(万/ul)
現在
1 63 3.8 3.3 5.8 6.8 10.6 13.2 2年後漢方薬を3分の2減量、PLTは13万前後
4年後膵臓癌で死亡
2 68 9.3 7.1 5.6 9.9 11.8 11.4 1年7ヶ月後漢方服用中止、PLTは15~18万安定
3 54 5~6 18.9 15.3 21.5 2年後漢方薬を2分の1減量、PLTは15~21万安定、
多発性硬化症を中心継続
4 53 7.0 7.8 5.9 3.8 9.9 12 現在12~15万安定 継続
5 5 1.3 1.7 1.7
(ガンマグロブリ
1g/kg点滴2日後5.5万)
10.6 11.6 5.5 現在プレドニン(5mg/日)を服用、漢方薬を継続中

症例4

女性
54才 30代でITPと診断 40代MSと診断 A年9月3日から漢方薬
主訴
微熱、鼻・歯出血、頭痛、頭重、体だるい、手足冷え、全身痛(腰、膝、関節)、肩こり、のどつまり、息苦しい、胃弱、腹部動悸 下痢便秘症、花粉症
治療
病院の不定期検査だけ 治療なし
漢方
A年9月3日から漢方煎じ薬服用
経過
A年10月1日 大便改善、腰痛減軽。
10月17日 血液検査結果 血小板18.9万。11月5日 冷え証、全身痛み、関節痛で漢方薬を調整
12月17日 多発性硬化症の症状は改善
A+1年6月 血液検査結果 血小板15.3万。
9月 血液検査結果 血小板21.5万。
A+2年 10月 血小板は15~21万前後安定で漢方薬を2分の1減量して、多発性硬化症の改善を中心、継続服用 

考察

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は指定難病であり、西洋医学ではステロイド薬の治療が中心である。しかし、ステロイド薬の長期投与による副作用に問題がある。一方、漢方治療は歴史が長く、優れた治療経験があり、「帰脾湯」(1253年「済生方」)、「四物湯」(1085年「和剤局方」)、「黄連解毒湯」(752年「外台秘要」)などはITPの血小板数を増加することができる。

第15回日本統合医療学会
{会 期}2012年1月15日
{会 場}大宮ソニックシティ
{主催者}日本統合医療学会
{演 題}特発性血小板減少性紫斑病(ITP)5例の漢方応用結果
発表者 侯 殿昌 北京懐仁堂漢方薬局